詐欺罪は重い罪です。「未遂」でも犯罪になります。
つまり詐欺が成功しなくても、詐欺行為に着手しただけで罪に問われてしまいます。
詐欺未遂罪が成立すると、どのくらいの刑罰が科されるのでしょうか?
今回は詐欺未遂罪の量刑の相場や実際の判例、逮捕された場合の対処方等を解説していきます。
詐欺未遂の概要
未遂罪は、犯罪の実行行為に着手したけれども、犯罪結果が生じなかったという場合に成立する犯罪です。
詐欺の場合には、相手に対して財物交付に向けられた欺く行為をすれば「実行行為の着手」があったことになります。
このように、詐欺の実行行為に着手した事実があれば、相手が騙されなかったことで結果的に財物が交付されなかったとしても、詐欺未遂罪として刑事責任を問われる可能性があります。
未遂と既遂で罪の重さはどう変わるのか?
刑法では未遂罪の場合、「刑罰を減軽することができる」とされています(刑法43条)。
つまり刑事裁判になったとき、裁判所の裁量で刑罰を軽くすることができるということです。減軽を受けられる場合、懲役刑であれば長期と短期が半分となります。
ただし必ず減刑されるとは限らず、減軽は裁判官の任意となっています。実際には未遂の場合は既遂のケースより量刑が軽くなる場合がほとんどです。
詐欺未遂の罰則と量刑の目安
詐欺未遂罪の法定刑は10年以下の懲役刑です(刑法246条)。これが減刑された場合は、量刑判断は5年以下の懲役刑の範囲内で行われます。
詐欺未遂の構成要件
詐欺未遂罪の構成要件は、詐欺の実行行為に着手することです。
なお、詐欺既遂罪の構成要件は以下の通りです。
欺罔行為
相手に対して財物交付に向けられた嘘をいうことです。
被害者の錯誤
被害者が欺罔行為により真実でない事柄を真実と誤信することです。
処分行為
被害者が錯誤にもとづいて財物を交付することです。
財産上の利益の移転
被害者の財物交付によって財産上の利益が移転することです。
上記が全て因果の流れで結びつけば詐欺既遂罪が成立します。他方、詐欺未遂罪は最初の欺罔行為がありさえすれば、犯罪としては成立します。
詐欺未遂の時効
詐欺未遂罪の場合も法定刑は詐欺既遂罪と同じであるため、公訴時効(刑事事件として起訴することができる限界期間)も詐欺既遂罪と同じ犯行後7年間です。
7年が経過すると詐欺が未遂であれ既遂であれ、刑事責任を追及することは原則としてできなくなります。
詐欺未遂の判例
高齢者への詐欺が失敗に終わった事例
当時84歳の女性が宝くじに必ず当選する「特別抽選」に選ばれて当選金を受け取れると信じていることを利用して、被告人がお金をだまし取ろうとした事案です。
平成27年3月、被告人は被害者に対し「今回の特別抽選はなくなり297万円の違約金を支払わないといけなくなりました。半額の150万円を準備できますか?」などと嘘を言って現金150万円を要求しました。
ただ被害者が嘘に気づいて空箱を発送したので未遂に終わりました。
被告人は詐欺未遂罪で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けました。
事件番号 平成28(う)451
事件名 詐欺未遂被告事件 裁判年月日 平成29年5月31日 裁判所名・部 福岡高等裁判所 参考:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/829/086829_hanrei.pdf |
オレオレ詐欺が失敗に終わった事例
オレオレ詐欺グループが当時71歳の被害者の子どものフリをしてお金をだまし取ろうとした事案です。被告人の仲間が被害者に電話をかけ、「株式投資の損失を補うために会社の現金を使い込んだ、至急補填する必要があるので300万円を用意してほしい」などと嘘を言いました。
被告人は「子どもから委任を受けたマツムラ」などと名乗って現金300万円を受け取りに行こうとしましたが、被害者が怪しんで通報したため待機していた警察官に逮捕されました。
被告人は詐欺未遂罪で懲役2年6か月、執行猶予4年の刑を受けました。
事件番号 平成28(わ)671
事件名 詐欺未遂 裁判年月日 平成28年9月23日 裁判所名・部 神戸地方裁判所 第1刑事部 参考:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/338/086338_hanrei.pdf |
詐欺未遂について無罪になった事例
被告人は当時79歳の被害者からプラチナ代金名目で現金をだまし取ろうと考えて、共犯者と共謀して被害者に電話をかけ「プラチナ代金の支払いが終わっておらず、逮捕を回避するためには100万円を支払う必要がある」とうそを言って現金100万円を支払わせました。
また当時70歳の被害者に対し、指示通りに現金を送らなければ刑事訴追を受けると誤信させ「私はKの上司です。部下のKはあなたの代わりに400万円を立て替えました。
Kはクビにしましたが、あなたあと200万円を払わなければなりません」などと言い、「品名はお菓子にしてください」などと言って現金を送るように仕向けました。ただ被害者が怪しんで警察に相談したため、詐欺に失敗しました。
被告人は1つ目の詐欺既遂については有罪となり懲役2年6月、執行猶予4年となりましたが、2つ目の詐欺未遂については無罪となりました。
事件番号 平成27(わ)645
事件名 詐欺未遂,詐欺 裁判年月日 平成28年4月18日 裁判所名・部 名古屋地方裁判所 刑事第5部 参考:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/210/086210_hanrei.pdf |
詐欺未遂で逮捕された後の流れ
詐欺未遂罪で逮捕されると、以下のような流れとなります。
逮捕後、48時間以内に検察官への送致
逮捕されたら、その後48時間以内に検察官の元へ身柄を送られます。
勾留されるかどうかが決まる
検察官が勾留(身柄拘束)すべきかどうかを判断します。勾留が必要と判断されれば、検察官は事件送致から24時間以内に裁判所に対して勾留を請求します。
検察官が勾留請求をしないと判断した場合や裁判所が勾留を認めなければ直ちに釈放されます。
勾留された場合
勾留されると最大10日間留置場で身柄を拘束されます。その後勾留が延長されれば最大10日間追加で身柄が拘束されます。身柄拘束中は必要に応じて取り調べを受けるなどします。
勾留されなかった場合
勾留されなかった場合には、身柄が解放されますが刑事手続が終了したわけではないので、在宅のまま刑事手続きに服することになります。
起訴か不起訴か決まる
勾留された場合には勾留期間が満期になる前に検察官が起訴するか不起訴にするかを決めます(あまり多くはないですが処分保留として釈放となるケースもあります。)。勾留されなかった場合、捜査が終了したタイミングで検察官が処分を決定します。
起訴されたら刑事裁判となる
起訴された場合には、刑事裁判になります。詐欺未遂罪の場合、略式裁判を行うことはできませんので、必ず通常の刑事裁判(公判請求)となります。
有罪か無罪か決まる
刑事裁判では最終的に裁判官が有罪/無罪及び有罪の場合の刑罰を判断します。
不起訴になった場合
不起訴になった場合には、身柄拘束されていた場合はすぐに釈放されます。在宅のケースではそのまま罪に問われることはなくなります。
詐欺未遂逮捕で弁護士に相談するメリット
もしも詐欺未遂罪で逮捕されたら、すぐに弁護士に相談しましょう。以下で弁護士に相談するメリットをお伝え致します。
今後の見通しを立てやすい
刑事事件で逮捕された場合、その後どうなるのか大きな不安を感じるものです。どのように対処するのが良いのか、わからない方も多いでしょう。
逮捕後すぐに弁護士がついたら、ケースごとの適切な対処方法についてアドバイスを受けられます。また今後の流れや見通しなども聞けるので安心感を得られます。
被害者との示談交渉を代理してもらえる
詐欺未遂罪で刑事責任を軽減する方法としては、被害者と示談することが挙げられます。
詐欺事件のように被害者のいる犯罪では、被害者との間で問題が解決していることは、刑事責任の判断に大きく影響する可能性があります。
逮捕された被疑者が自分で示談を進めることは通常は困難です。弁護士であれば示談処理を代行してもらうことが可能です。
詐欺は財産犯の中でも起訴される可能性も高い
ただ詐欺にもいろいろあります。上記で紹介したようなオレオレ詐欺などは悪質であり、不起訴ということは通常考えにくいです。
ただ、早期に被害者と示談して被害弁償が完了しており、被疑者にも前科・前歴がないということであれば、検察官が不起訴を選択する可能性はゼロではありません。
仮に、不起訴とならなかったとしても刑事裁判で被害者と示談した事実が有利な事情として斟酌され、実刑判断が回避されるという可能性もあります。
まとめ
詐欺罪は重い罪です。たとえ未遂であっても重く処罰される可能性があります。早期に刑事弁護に長けた弁護士に刑事弁護を依頼することで、刑事責任を軽減できるかもしれません。
逮捕されてお困りの場合、一刻も早く刑事弁護が得意な弁護士に相談をしてみてください。